ミラージュⅡ
佐々木岳人
2021
幅310×奥行160×高さ75mm
材料:漆(うるし)、油刺(あぶらざし)、和紙(わし)、銀(ぎん)、貝(かい)、乾漆(かんしつ)、変色塗(かわりぬり)、螺鈿(らでん)、蒔絵(まきえ)
一見するとファスナー付きの革製品に見えるこの箱は、伝統的な漆器の技法を用いて製作されたものです。革のような質感は変色漆技法によって、ファスナーは蒔絵技法によって再現されています。この作品は、蜃気楼が人間の心理に与える影響を再現することをテーマとしています。この箱に施されたファスナーは決して開きません。見慣れたものが偽物だと分かった時の心理的動揺は深いものがあると考えます。蜃気楼にも同じことが言えます。例えば、未確認飛行物体が蜃気楼として現れても、それが蜃気楼だとは気づかないかもしれません。つまり、この作品は、鑑賞者の心理状態や知識によって、物事の存在の認識がどのように変化するかを探ろうとしています。

漆を塗り重ねることで、しなやかで美しい表面が生まれる一方で、時にその奥にあるものが見えにくくなることがあります。こうしたジレンマは漆芸ならではの魅力ですが、私たちの身の回りの様々な物事にも通じるものがあるように思います。例えばお金。数字で価値を測るには便利ですが、数字に囚われすぎると、その真の価値を見失ってしまうこともあるのです。
現代社会においては、表面的なことだけでなく、そうした「目に見えない部分」にも目を向けることが大切だと思います。同時に、目に見えないところに誠実さを求めることは、漆芸に限ったことではなく、日本の文化を支えてきた大切な精神なのです。
日本の職人技は長い歴史の中で磨かれてきました。
日本の職人が隠れた細部にまで注ぐ献身と配慮こそが、この製品をユニークで魅力的なものにしているのです。
日本の工芸作家として、これからも日本文化の本当の魅力を理解し、伝えていくために努力していきます。
——佐々木岳人
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